金融の生成AIガバナンス実践事例|ハルシネーション受容と組織戦略【DACo2026】
目次

本年で7回目を迎える「データ解析で世の中を変える」をテーマにしたデータフォーシーズの『Data Analytics Conference 2026』を2026年5月28日(木)に開催いたしました。
本記事は、弊社イベントにて行われた金融パネルディスカッション「堅牢な守り、大胆な利活用。金融・医療が直面するAI活用の『ジレンマ』をどう解くのか」の模様をログレポートとしてまとめたものです。
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Takahiro Yamamoto
山本 隆広 / パネリスト
auフィナンシャルホールディングス株式会社 執行役員
【auフィナンシャルホールディングス株式会社】
https://www.au-financial.com/
auフィナンシャルホールディングス株式会社は、KDDIグループにおける金融・決済事業の強化を目的として、2019年にKDDIが100%出資する金融持株会社として設立。
以来、グループ会社であるauじぶん銀行、auフィナンシャルサービス、auアセットマネジメント、auフィナンシャルパートナー、au損害保険、au少額短期保険、au Reinsurance Corporation、とともに、グループ一体となって、次世代金融サービスの創造に取り組んでいる。 -

Rui Kimura
木村 塁 / パネリスト
KDDI株式会社 事業創造本部 AIプロダクト部長
【KDDI株式会社】
https://www.kddi.com/
通信事業を中核に、個人向け・法人向けのサービスを幅広く提供する総合通信事業者。「AI前提社会」におけるお客さま起点での価値づくりを重視し、国内およびグローバルに事業を展開。 -

Director, Domestic Bank
国内銀行X / パネリスト
国内銀行 データ企画・戦略担当責任者
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Toshiyuki Yokota
横田 稔之 / モデレーター
株式会社データフォーシーズ
フィナンシャルマネジメントユニット ユニットリーダー銀行業界におけるプロジェクトを数多く担当。
リテールローンの信用リスク管理を始め、トランザクション・バンキングやアンチ・マネーロンダリング業務での分析経験を持つ。データ分析・モデリングはもちろん、その前後の分析体制構築から安定運用化までを支援する。
30秒でわかる本セッションのポイント
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ハルシネーションの受容とデータ整備:
AIの「誤り(ハルシネーション)」を前提として受容しつつ、入力データの整備とAIポリシーによる説明責任(ガバナンス)を果たすことが重要。 -
ソブリンAI/クラウドの必要性:
金融・医療などの機微データ活用には、国内データセンターを活用したセキュリティ担保と「ソブリンAI」の選択肢が鍵となる。 -
今後3〜10年のDX・組織戦略:
「AIを使う」から「AI前提」への発想転換が必要。コード記述などの作業はAIに委ね、人間はAIをマネジメント・レビューする人材へシフトする。 -
金融×ライフサイエンスのシナジー:
厳格なデータガバナンスと同意取得を前提に、両分野のデータ連携により「一人ひとりの人生に寄り添う」高度なライフプラン提案と新サービス開発を目指す。
金融経済圏の進化とデータ連携による相乗効果
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横田
ここからは私、横田が進行させていただきます。このパートでは、3社3名の方々にパネルディスカッション形式で質問に答えていただきます。
早速1つ目のテーマ「金融経済圏の進化」と題しましてお話しいただきます。昨今、BaaS(Banking as a Service)をはじめ、異業種からの金融業界への参入が目立っている印象です。本業およびグループ会社のデータ連携による、金融業務の相乗効果について、まずはauフィナンシャルホールディングスの山本様、簡単な自己紹介を兼ねて2分ほどでお話しいただけますでしょうか。 -

山本
皆さんこんにちは。auフィナンシャルホールディングスの山本でございます。弊社はKDDIの子会社になります。銀行事業や決済、損保、資産運用といった金融領域のサービスをフィナンシャルグループとして提供している持株会社です。私はそちらで、各社の様々な金融サービスを連携させて、お客様に新しい金融サービスを提供するグループ連携の部署で働いております。
我々のグループの特徴は、通信事業であるKDDIの子会社となりますので、通信の様々な「日常データ」と、決済や銀行での「金融データ」を組み合わせられる点にあります。こうした様々な日常の接点から得られるデータを組み合わせて、新しい金融体験をお客様に提供していくことに、日頃から取り組んでおります。 -

横田
ありがとうございました。続いて、大手金融機関でデータ戦略を率いる国内銀行Xのご担当者様、貴行(グループ)の状況について、簡単な自己紹介とともにお願いいたします。
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国内銀行X
データ企画部を担当しております。本日はよろしくお願いいたします。
グループ全体の取り組みという観点で申し上げますと、課題が少なくないというのが実情です。私が所属する組織につきましては、もともとグループ本体で手掛けていた特定の事業領域を当行に集約し、現在の中核事業として推進してきた経緯がございます。そのため、必ずしも「グループ各社が連携してビジネスを展開する」という発想が強かったわけではありませんでした。
また、グループ企業間におけるデータ連携についても、大きな課題があります。特に、お客様情報の取り扱いに関しては法規制があり、グループ会社間であっても自由に情報を共有できるわけではありません。当然ながら、お客様の同意をはじめとする適切な手続きが必要となります。こうした点は多くの企業グループに共通する課題かと思いますが、法規制への対応を前提とすると、データ連携も容易ではないというのが率直なところです。
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横田
ありがとうございました。auフィナンシャルホールディングス様では日常データの活用が進んでいるのに対して、国内銀行X様の組織では法規制も含めてなかなか難しいところもあるという、非常に対照的でリアルなお話だったかなと思います。
生成AI活用のジレンマ:ハルシネーションの受容とデータ整備
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横田
それでは、続きまして2つ目のテーマに進みたいと思います。データを持っていても、AI活用にあたってセキュリティや出力の精度に対してジレンマを抱えている企業様は非常に多いと思います。まずは国内銀行X様、現場のリアルな悩みや取り組みを教えていただけますでしょうか。
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国内銀行X
データとAIという観点では、弊社においても積極的に活用を推進しております。一方で、AI活用における代表的な課題として挙げられるのが、いわゆる「ハルシネーション(もっともらしい嘘)」です。
しかしながら、冷静に考えれば、人間が間違えることがあるように、AIの出力も完全ではないという前提を受け入れることが重要だというのが我々の考え方です。ただし、お客様にサービスを提供する立場としては、AIを活用していることや、その特性や限界についての説明責任があります。現在、多くの企業が「AIポリシー」を策定・発表されていると思いますが、我々もそうした適切な情報開示を行うことが重要であると認識しております。
また、ジレンマという観点では、AIは賢いので、誤ったデータを入力した場合でも、それらしい回答を生成してしまいます。そのため、「AIに入力するデータをしっかり整備していくこと」や「AIの出力の正確性をいかに担保するのか」が重要であると考えております。
社内向けプレゼン資料を作るための壁打ち程度であれば許容できますが、お客様向けサービスとして活用する場合には、データの正確性が極めて重要になります。しかしそのためのデータ整備には多大な労力が必要であり、「必要性は強く認識しつつも、どのように進めるべきか苦心している」というのが現場の実感です。 -

横田
正確性に関しては受け入れる部分もありつつ、そこに投入するデータを綺麗に整えることによって、より正確な回答を求めていく、ということですね。ありがとうございます。
では、続きまして木村様。これに対してKDDI様の方では、インフラ・システムの提供者として様々なお客様の声を聞く機会があると思いますけれども、いかがでしょうか。 -

木村
私はKDDIの中で、今はAIプロダクト部というところで、どちらかというと新規事業を担当しております。
新しいAIサービスとして、先ほどお話しいただいた「信頼性」という問題がある中で、信頼できるデータソースをきちんと拾ってきて、お客様にお答えするようなサービスを考えています。そして、信頼できるデータソースの提供者の方々にはちゃんと価値循環をするような、そういったビジネスモデルを作ろうとしています。本日はテーマが金融ですので、そこに寄せたお話をできればと思います。
前部署ではKDDIの中で全社のAI戦略や、AIガバナンスも含めて、データを含めた「攻めと守り」のすべてを担当していました。そういった観点で他社さんとも情報交換する機会は多かったのですが、やはり「生成AIを活用する上でセキュリティは切り離せない」という観点は間違いなくあります。
基本的に今の生成AIはクラウド上で活用されているので、まず「そこへデータを出していいか」というところでハードルがあったかと思います。そこは割り切って皆さんやっている部分もあるのですが、それでも「クラウドには出せないデータがある」という現状において、少しバズワードになってきたような『ソブリンAI』や『ソブリンクラウド』が必要とされているケースがあるなと感じています。
金融業界で話を聞いていると、すべてのデータが出せないというわけではなく、法規制で一律に禁止されているわけでもないのですが、どうしても一部のデータに関してはクラウドには置くことができないと。そういった時に、我々のような推進事業者が提供する「日本国内のデータセンター」の中で、我々が持つGPUを使い、AIモデルを持ってきてそこで動かしてもらう、というニーズがあったりします。こういったところが金融業界ならでは、あるいは他の業界でもあるかもしれませんが、AI活用における一つのポイントになると考えております。
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横田
ありがとうございました。データを出せるもの、出せないものの見極めが大事ということで、国内データセンターという強み、そしてソブリンAIの視点は非常に重要ですね。これはヘルスケア情報など、ライフサイエンス分野のセキュリティにも通じるところがあるのかなと思います。それでは3つ目のテーマに移ります。
次の10年のDX戦略:AI前提の組織・データ基盤・ガバナンス
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横田
近年のAI技術の台頭で「人が減る」「作業工数が減っていく」といったお話もある中、次の10年にむけてどういったDX戦略をお考えか、皆様のお話をリレー形式で伺いたいと思います。まずは山本様からお願いいたします。
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山本
10年という長いレンジで見ると、AIを使った「省力化」は必須になってくると思います。データを整理するといった作業的な仕事はどんどんAIに置き換わっていくでしょう。
そうした中で、人間がやるべきことというのは、より高度な部分や、人間でしかできないエモーショナルな部分。非常にありきたりな言葉でいうと「ぬくもり」みたいなものを届けるところが求められてくるのかなと。
そういったところに人間が注力していくにあたって、AIをしっかり使いこなせるようになる必要があります。今、人間の場合はマネージャーが部下をマネジメントしますけれども、これからは「人間がAIをマネジメントしていく」ことになります。先ほども「AIは嘘をつく」などと言われていましたので、その点でも人間がAIをしっかりマネジメントしていく、そういった人材を育成していかなければならないというのが一つあります。
そういった人材育成をしていくにあたって、自社でさまざまなトライ・アンド・エラーをやる必要がありますが、そこにAIの専門家の力も借りながら、しっかり「内製化」していく。そういった取り組みが必要になってくるかなと思いますし、それが一つ重要な戦略になると考えています。 -

木村
今やっている業務のやり方をどんどん代替していく必要があるかなと考えております。生成AIが出た当初から「自分たちの業務が生成AIに置き換わるのではないか」と言われつつも、まだ全然置き換わっていないというのが正直なところかと思います。
ただ、ソフトウェアエンジニアリングなどはかなり置き換えが進んでいるというか、置き換えというよりも、ソフトウェアエンジニアが『Claude Code』などを使いながら、パフォーマンスが数倍になっているところは非常に大きな変化なんじゃないかなと思っています。
我々が携わっているようなデータ領域に関しても同じで、データサイエンティストの分析業務の中で「コードを書く」という部分がこれまでは重要なポジションを占めていましたが、そこに関してはAIに置き換わっていく(委ねられていく)と思います。そうなると、山本さんもおっしゃっていたように、「マネジメントしていく」あるいは「レビューしていく」という能力の方が求められるようになります。
そうすると生産性も格段に上がっていきます。これまでは5人や10人投入しなければいけなかったところを、1人か2人のスペシャリストを育ててその人たちがカバーする、という世界になるかもしれません。
あるいは、データサイエンティストは基本、基幹事業の担当者と伴走しながら業務を行うと思うのですが、事業をやっている側にそうしたスキル(生成AIを使ったコード生成などのスキル)を提供して、代わりにデータ分析をさせてあげる。そういうような「組織やチームのあり方」を見直していくことが、今後10年で必要かなと。ただ、そこにはまだ絶対的な解がありません。年々変わっていくので、その「変わり続ける環境にトライし続けること」自体が、この10年の戦略になるのではないかと思っております。 -

国内銀行X
正直なところ、変化があまりにも速くて、10年後を正確に予測するのは難しいと思っています。ただ、感覚的には10年後というより、3年後にはかなりそうした世界になっているのではないでしょうか。
先ほどからも話が出ていますが、我々は考え方そのものを変える必要があると思っています。これまでは「AIを使う」「AIを活用する」という発想でしたが、これからはAIを使うことが当たり前になるはずです。
つまり、仕事の進め方も、ビジネスの作り方も、我々の日々の過ごし方すらも、AIを前提に組み立て直さないといけないと思っています。そのためには「組織」「データ基盤」「ガバナンス」の3つの観点をしっかり整えながら進めていく必要があります。これは10年先の話ではなく、今後3年くらいで取り組むべきことであると考えております。 -

横田
皆様、ありがとうございました。役割が変化するとともに、組織のあり方やガバナンスを変えていかなければいけないというところ、大変ためになります。
金融×ライフサイエンスがもたらすシナジーと未来
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横田
では、4つ目のテーマです。本日、ライフサイエンスとの共催という形をとらせていただいております。
各社それぞれ医療やヘルスケア、シニア事業といったライフサイエンス領域とも深い関わりをお持ちでございます。「金融分野とライフサイエンス分野」、これら両方のシナジーについて一言ずついただきたいと思います。まずは国内銀行X様から。 -

国内銀行X
様々なハードルがあるのも事実ですが、医療・ヘルスケアに関するデータを適切に活用できるようになれば、高度なライフプラン分析が可能になると思います。その結果、お客様一人ひとりの状況や将来設計に応じた資産形成や資産運用の提案が実現できる可能性があり、それらのニーズを踏まえた新たな金融商品の開発につながるのではないかと思います。
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木村
通信事業者の目線からも共通する部分が多いと考えております。やはり「データの取り扱いに関して慎重にならざるを得ない」というところが非常に類似しています。我々通信事業者においてもそういったデータがあり、「通信の秘密」と呼ばれるような、皆さんの通信の内容を守るということは、金融や医療と結構似通っています。
そのような機微なデータに対して、ただ「AIを使わない」という選択肢はないので、いかに安全に活用していくか、個人情報をどのように保護・整理していくかといった様々な課題をクリアし、活用可能な状態へと導くプロセスが非常に似ていると感じております。 -

山本
ライフサイエンスもまた、お客様の日常生活の重要な一部となります。そうしたデータを活用し、保険をはじめとする金融サービスを通じて「お客様の人生そのものに寄り添う」ことが求められます。様々なサービスを組み合わせてお客様の生活を総合的に支えていく、そうした発想が必要不可欠ですし、テクノロジーによってそれが実現可能になってきていると考えています。
その実現に向けては、データの取り扱いに関する慎重な姿勢が前提となります。我々も、お客様からしっかりと同意をいただきながら活用を進める体制を整えております。この領域は今後さらに広がっていくと予想されますが、それがお客様にとって「より幸せな人生を送るための新しいサービス」として真に価値あるものとなるよう、価値提供のあり方を含めて真摯に取り組んでいく必要があると考えております。 -

横田
データの取り扱い、セキュリティというハードルと、ライフプラン、人生そのものに寄り添う、という共通点がキーワードになりそうだなと思っております。
本日は3社3名の方から貴重なお話を聞かせていただきました。我々データフォーシーズでも、皆様の今日のご意見を踏まえながら、同じ方向を向いて取り組んでいけるように頑張っていきたいと思います。以上をもちまして、金融パネルディスカッションを終わります。山本様、木村様、国内銀行Xご担当者様、どうもありがとうございました。