SNSや口コミなどのトレンドデータを活用した、マーケティング戦略・施策の策定と検証
目次
時流や世相を理解するためには、外部データであるトレンドデータを積極的に読み解く必要があります。自社データの内容によっては、ある程度の時流や世相の趨勢を理解する手がかりになり得る、トレンドデータ的なものもあるかもしれません。たとえば、食品メーカーなどが、自社商品の売上の傾向として、「辛口商品」の売上が伸びているので、“辛いもの”が流行しつつあるのではないか、と推測したりすることです。しかし、それは極めて限定的なトレンドデータと言わざるを得ません。自社商品の売れ筋が、辛口にシフトしつつあるというひとつのトレンドデータをもって、辛いものブームの到来を断定するのは、少々乱暴です。やはり、きちんとした外部のトレンドデータを収集・解析した上で、実際のトレンドがどうなっているのかを見極め、それを自社のマーケティング戦略に活用すべきです。
では、どのような外部データがトレンドデータとして活用に値し、時流や世相などのトレンドを把握できるでしょうか。
どんな商品・サービスを扱うのかによって、活用すべきトレンドデータは千差万別です。ただ、どんな商品・サービスであれ、ぜひ活用したいトレンドデータのひとつが、SNSなどの発言データです。ツイッターをはじめとしたさまざまな口コミ情報などは、有用なトレンドデータになり得るでしょう。
本稿では、自社内部のデータと、外部データであるSNS・口コミデータなどのトレンドデータを組み合わせて解析することの有用性について、事例を取り上げながら詳しくみていくことにしましょう。
売上データ(自社)×SNSデータ(外部のトレンドデータ)で、キャンペーンの成否を正しく評価する
下の図1は、ある某小売チェーンの、とあるキャンペーン施策の効果について、自社データを分析したものです。
使用したデータは、「売上金額」「客数」「客単価」「リピート率」「離反顧客数」「新規購入数」です。それらのデータについて、キャンペーン施策の「実施前」「実施期間中」「実施後」の3つのタームに分けて分析します。
これを見ると、売上金額は、施策の実施前の100万円から、実施期間中には120万円と増加していますから、20%ほど伸びたことがわかります。しかし、その下の「客数」に注目すると、施策期間中はむしろ人数が減ってしまっています。つまり、お客様の絶対数は減ってしまったが、客単価がアップしたことにより、結果的に売上金額は増加した、というわけです。次に「リピート率」を見てみると、施策の実施前と実施期間中では数値に差がなく、施策実施後もわずかに5ポイント改善して25%になった程度ですから、それほどお客様の心に響く施策とはいえないということがわかります。さらに注目したいのが、離反顧客数と新規購入者数です。既存顧客は離反してしまっており、同時に新規顧客が流入してきたことによって、全体の客数はほぼ変化なしという状況を維持できたようです。
さて、これらの自社データ解析によって、施策の成果を定量的に推測することはできましたが、それだけで、施策そのものを評価することは難しいと言わざるを得ません。
そこで、こうした自社内のデータに加えて、外部データをも収集し、施策の効果を多角的に解析することで、定性的な傾向を把握し、施策の良い点・悪い点を明らかにして、きちんと検証することにより、次の施策へ繋げることが可能になるのです。
下の図2を見てください。
これは、施策に関連したSNS上の発言についてまとめたものです。実施されたキャンペーンなどの施策に対して、人々がどう感じているか、どう評価しているかの、一種のトレンドデータだと言えます。
まずは「関連発言数」ですが、施策実施前の300から、実施期間中は1200と、実に4倍になっていますから、キャンペーンの反響は大きかったと評価できます。実施後も800という発言数が継続しており、比較的長く効果が維持されていたこともうかがえます。
しかし、発言内容のうち、ポジティブな発言は40%→20%→10%と、時間の経過とともに減っていき、逆にネガティブ発言は、20%→60%→70%と増えています。また、競合他社ワードもネガティブ発言と同様に増えています。この外部データの解析結果と、自社データの顧客の離反推移を重ね合わせると、「キャンペーンについての評価は決して良好なものでなく、顧客の離反を促進してしまっており、同時に競合他社ワードも増加していることに鑑みれば、自社の顧客が競合他社に奪い取られている可能性が高い」ことを示しています。よって、もしこのまま何の手も打たなかったとしたら、顧客の離反が進んでしまうだろうということを危惧する必要があることがわかります。
またブランドイメージについても、従来のカジュアルなイメージが、施策実施期間中には、高級感に振れています。客単価のアップも、こうした高級感イメージに振れた結果といえるのでしょう。これがねらいなら良いのですが、どうもそうではないようです。それは施策後のブランドイメージが「改悪/裏切り」というイメージになっていることからも明らかです。もともとカジュアルなイメージを持っていた既存の顧客は、施策によって単価がアップしたことを快くは思っておらず、改悪・裏切りだと評価して離反していったわけです。キャンペーン施策中に売上が伸びたのは、単価が上がったことに加えて、新規客を引き入れることができたからです。しかし、その新規客も1回は購入したものの、「高級志向」だと考え、リピーターにはなり得ないとなれば、この先の集客や売上には悪い影響が及ぶだろうことは想像に難くありません。
かろうじて新規客が増え、客単価が上昇したことで、施策期間中の売上金額は上向いていますが、状況は決して喜べるものではないということが、外部のトレンドデータを収集・解析することによって明らかにできたのです。
もし、こうした外部のトレンドデータを収集・解析することなく、自社データのみを見ていたら、「このキャンペーン施策は成功」と評価していたかもしれません。自社データのみ分析し、外部のトレンドデータを利用しないことの恐ろしさがおわかりいただけたのではないでしょうか。
外国語の口コミサイト(SNS)の発言データを解析し、アフターコロナのインバウンド観光戦略に活用する
かつて日本は、“2020年訪日外国人旅行者数4000万人”などを目標に掲げ、観光立国を目指していました。国を挙げての施策などが奏功し、2018年には訪日外国人旅行者数は3100万人を超え、さらに2019年も3200万人に届く勢いでした。しかし、新型コロナウイルスによるパンデミックの影響で、2020年・2021年と大幅なダウンが余儀なくされ、インバウンド需要を見込んでいた関連業界は大打撃を受けました。
ワクチン接種が進めば状況は改善するのではないかという期待がある半面、変異株が蔓延すれば、ワクチンの効果も限定的なのではないかという懸念も生じるなど、2021年9月に入っても、新型コロナ収束までの道のりが見通せない状況です。
しかし、いましばらくはこの厳しい状況が続くとしても、やがては、人類が新型コロナウイルスに打ち勝ち、コロナ禍以前の世界を取り戻すことができるはずです。
コロナ禍が収束すれば、再び3000万人を超える外国人旅行者が日本を訪れることになるはずです。そこで、この項では、アフターコロナの需要増を見越した「インバウンド観光戦略」について、内部データと外部のトレンドデータを組み合わせて解析することによって、どんな知見を得ることが可能なのかについて見ていくことにしましょう。
使用するのは、外国語の口コミサイト(SNS)の発言情報です。これが、活用すべき外部のトレンドデータとなります。下の図3を見てください。
これは、東京都内の主要な観光地に関する、日本語/外国語別の口コミ数の推移を収集・解析したグラフです。東京都内の主要な観光スポットについての外国人の興味関心の度合いがわかるトレンドデータです。
これを見ると、2014年以降外国語の口コミ数が急増して、日本語の口コミ数を大きく上回り、コロナ禍が発生した2020年1月以降大きく下降しているのがわかります。
さて、口コミ数のボリュームはともかく、これらの発言の内容に踏み込んで、データを解析して、トレンドデータとしてきちんと整理しておくことで、今後、インバウンド需要が戻ってきた時に、どのようなインバウンド観光戦略を採るべきかが明らかにすることが可能となります。
どの外国語による口コミが、どの観光スポットを評価しているのかが明確になる
下の図4-1と図4-2を見てください。
図4-1は、当該の口コミサイトで、どの言語による書き込みが多いかを示すランキングです。1位の日本語を除くと、英語(ENGLISH)圏・スペイン語(SPANISH)圏、イタリア語(ITALIAN)圏の旅行者の発言が多く見られました。
しかし、満足度ということで見れば、ロシア語(RUSSIAN)圏、ギリシャ語(GREEK)圏、ポルトガル語(PORTUGUESE)圏の旅行者が特に多いことがわかります。
さらに、これらのトレンドデータを細かく解析してみると、より興味深いことがわかります。
次の図5を見てくだい。
これは、外国語(日本語以外)による書き込みの割合の高さ(横軸)と、書き込み件数(縦軸)で、東京の観光スポットを集計したものです。東京都内の主要観光スポットについての外国人の興味・関心の度合いなどがわかるトレンドデータだといえます。図の右側に行けば行くほど、外国語の書き込み割合が高く(日本人より外国人に人気)、上に行けば行くほど書き込み数が多い(絶対的な人気が高い)ことになります。よって、図の右上は外国人にとってのテッパン観光名所、右下は知る人ぞ知る隠れた観光名所、左下はあまり外国人がこないローカル観光地だということができます。
新規出店エリアの選定や、既存店舗におけるサービス開発の拠り所になり得る
このように観光スポットごとに、どんなインバウンド需要のあるスホットなのかを明確に理解することによって、今後、どのような外国人ターゲットに対して、どのような戦略を採るべきなのかを推測することが可能になるのです。
すでに自社店舗を観光地で展開している事業者であれば、自社店舗の立地がどのような特性をもっているのかを明確にすることにより、どんなターゲットに対して、どんな商品・サービスを展開すべきかを導き出すことが、こうしたトレンドデータを解析することで可能になります。
たとえば、同じ土産物店であったとしても、個々の店舗ごとに、店舗立地の特性に応じて、どんなサービス開発やマーチャンダイジングが必要なのかが違ってくるということです(図6参照)。
また、これから観光地で新規出店したいと考えているのなら、自店の特性を踏まえつつ、立地特性に合わせたサービス開発やプロモーション施策を展開したり、あるいはこれから出店立地を探すのであれば、自店のコンセプトに相応しい立地の選定に、こうしたトレンドデータを役立てたりすることが、極めて有益なのです。
データドリブンのマーケティング戦略のために必要なこと
本稿で取り上げたような、キャンペーン施策の効果測定とその解析結果に基づく次なるマーケティング施策の展開や、外国人観光客の動向などを解析した上でのインバウンド観光関連ビジネスの出店戦略、サービス開発・マーチャンダイジング戦略の立案などの実効性を高める上では、『内部データ×外部データ』の収集・解析が不可欠です。適切な外部データをトレンドデータとしてきちんと収集し、それらをしっかりと解析した上で、自社の売上データなどと組み合わせた深い解析を行うことで、競争優位性を発揮することが可能になるのです。
しかし現実問題として、日本企業におけるデータの利活用は、世界的に見ても遅れていると言われています。データ分析ツールのクリック・テクノロジーズ社(米国)の日本法人であるクリックテック・ジャパンが2018年に実施した調査によると、調査対象となった世界10か国の中で、日本企業のデータ活用レベルは最下位でした。
これだけ遅れている一因としては、いわゆるデータサイエンティストの不足が挙げられます。データ利活用のためのスキル・ノウハウをもつデータサイエンティストは世界的にも不足している状況で、企業などが採用することが非常に難しい状況にあります。
そのため、データ利活用の有用性に気づきながらも、積極的に取り組めないという企業が多いのが、現在の日本の実情です。 しかし、そうした状況の中でも、外部のトレンドデータなどを的確に収集・解析するなどして活用し、データドリブンなマーケティング戦略、あるいは経営戦略を推進しようと思ったら、たとえば株式会社データフォーシーズのようなデータサイエンスを専門に扱う支援企業をパートナーとすることが、もっとも近道だといえるでしょう。