自社データのみで分析する場合と、外部データを活用する場合の違い
目次
はじめに
マーケティング活動を効率化させるために活用するデータとして、どんなデータが考えられるでしょうか?
すぐに利用できるデータとして自社に蓄積されたデータ(以下、自社データと記す)があります。業態にもよりますが、一般的に以下のようなデータが蓄積されています。
- 会員/顧客情報
- 商品出荷/売上データ
- POSデータ
- サイトアクセスログ
- 自社運営サイトでの収集データ
- 営業訪問/活動履歴
- コールセンター入電履歴
自社データは、自社の状況を把握するための良い材料となります。具体的に挙げると、次のような状況の把握が出来ます。
- 自社顧客の属性や行動を捉えることが可能になる
- 自社の姿/構造が判り自社課題が明確になる
- 施策実施による売上効果などが定量的に把握できる
一方、自社データのみではカバーしきれないような状況も存在します。以下にその一例を示します。
- 自社での購入がない/登録がない顧客状況は分からない
- 外部影響(例:コロナ感染)による売上変化が判断できない
そのため、自社データのみを活用して組み立てたマーケティング戦略は“木を見て森を見ず”になってしまいがちです。それをカバーすべく、自社以外の機関で作成されたデータ、すなわち外部データも活用したマーケティング活動が行われています。 本記事では、外部データとそれを利用したマーケティングの一例を見ていきます。
外部データの一例
世の中には多様な外部データがありますが、例として以下のようなデータがあります。
- アンケート調査
- SNS情報
- 他社運営クチコミサイト情報
- 天候気象
- 人口統計
- 商業統計
- エリア統計
- 各種オープンデータ
これらの項目について、もう少し深掘りしてみましょう。
消費者の声を聞く
消費者の意見が反映された外部データとして、アンケートやSNSが挙げられます。
アンケート
アンケートは、消費者の意見を取り入れるためのシンプルな方法です。Webアンケートの作成や代行を行ってくれるサービスも存在し、それらを利用する事で多くの方に回答してもらうことが可能です。聞きたいことが聞けるメリットがある一方、それなりにコストはかかります。
アンケート結果をもとに自社の強みを伸ばしていく/自社の弱みを補強していく、などといった活用が考えられます。
SNS
SNSによるマーケティングですと、自社のアカウントを作成して運用する、SNSに広告を出す、などといった宣伝手法があります。それ以外にも、自社に関連する内容やトレンドなどをWebクローリングにより収集し、そのデータを活用する方法もあります。こういった方法は「ソーシャルリスニング」と呼ばれています。
アンケートの場合、質問事項を自分たちで設定しなければなりませんが、SNSの場合はこういった制約がないため、より生に近い声を聞き出せるというメリットがあります。また、SNSは自分から気軽に情報発信することが可能なため、アンケートと比べても非常に多くのデータがネット上に存在します。一方でデータの信頼性に関しては懸念があるため、情報の真偽についてはしっかりと見極めて利用していく必要があります。 自社の関連ワードを見ていくだけでも評判の調査ができますし、特定のワードに絞って時系列推移を見ていくことでトレンドの把握や予測などにも活用することができます。
トレンドを知る Googleを例に
トレンドの把握に関連した内容ですが、トレンドに関するデータを提供している企業はいくつかあり、Googleもその1つです。
Google Trend
https://trends.google.co.jp/trends/?geo=JP
特定のキーワードに対して、過去から現在におけるGoogle検索頻度を指標化した時系列推移データを取得することができます。複数のキーワードのデータを同時に取得し、それらの時系列推移を比較することも可能です。
Google COVID-19感染者予測
https://datastudio.google.com/u/0/reporting/8224d512-a76e-4d38-91c1-935ba119eb8f/page/ncZpB
全世界/日本→都道府県別にGoogleが独自に予測を行い、感染者数の実績~予測値を公開しています。
2021年8月現在も新型コロナウイルス感染症は流行しており、感染者の推移もマーケティングにおいて重要な要素となります。
SNSや口コミデータの利用例
ここでひとつ事例として、自社店舗売上データとSNS/口コミデータを組み合わせた施策効果検証フレームを紹介いたします。
自社で何かしらの施策を打った場合、その効果をはかるために、「施策効果指標」をいくつか設定した上で、「施策前」「施策期間」「施策後」の3つの期間における指標を調査します。施策効果指標として自社データのものを例に挙げると、
- 売上金額
- 客数
- 客単価
- リピート率
- 離反顧客
- 新規購入
などといった指標が挙げられます。
これにSNSや口コミサイトから得られた外部データを組み合わせることで、施策効果を多角的に解析できます。例えば
- 施策に関連した発言数の増減を見ることで、施策の反響がわかる
- 施策に対するポジティブ発言およびネガティブ発言の割合を見ることで、施策への賛否がわかる
- 競合他社のワードに関する発言の割合を見ることで、離脱が増えているかがわかる
- 「カジュアル」「高級志向」などといったキーワードの傾向を「ブランドイメージ」という指標として、ブランドイメージがどう変化しているのかがわかる
などといった視点からの分析ができます。これにより、次の打ち手・改善点の検討に繋げることが可能となります。
政府機関を活用する
次に、政府機関が提供しているデータをいくつか紹介いたします。
e-Stat(https://www.e-stat.go.jp/)
総務省統計局が整備し、独立行政法人統計センターが運用管理を行っている、政府統計ポータルサイトです。掲載されている情報の種類は徐々に増えており、統計データをグラフで表示したり地図上に図示したりと、データの見せ方も徐々に改良されています。ホームページには、これらのデータの活用事例がいくつか掲載されており、そちらも参考になるでしょう。
RESAS(https://resas.go.jp/#/13/13101)
内閣府の「まち・ひと・しごと創生本部」が運用する、地域経済に関する様々な統計データを可視化/分析する機能を有する無償のサービスです。最近ですとV-RESASというサービスもあり、こちらでは新型コロナウイルス感染症が地域経済に与える影響の可視化を行っています(https://v-resas.go.jp/)。
e-Stat同様に、ホームページにデータの活用事例がいくつか記載されています。
気象庁 公式HP(https://www.jma.go.jp/jma/index.html)
気象庁では降水量や気温などといった様々な天候情報を提供しており、csv形式のデータを無料でダウンロードすることが可能です。気象データを需要予測や在庫の最適化に役立てるような手法は「ウェザーマーケティング」と呼ばれています。
補足:天候データを提供している他の企業について
気象庁以外にも、天候データを扱っている企業はいくつかあります。こういった企業からデータを入手する場合は有料になってしまいますが、各企業で様々な工夫をしており、
- 更新頻度や精度が高い
- データの形式が利用しやすい
- 独自の情報を提供している
などといった面において気象庁発表のデータよりも質の良いデータが入手可能です。
携帯キャリアを活用する
大手携帯キャリアでは、許諾済スマホユーザーの位置/移動/属性情報を統計データ化し、様々な形式で提供しています。これは「人口統計データ」と呼ばれているものです。
位置情報だけでなく移動情報も分かるので、新型コロナウイルス感染時の人の動きの変化分析や人口の流動を加味した店舗の出退店の判断など、様々なテーマにおいて活用されています。
携帯キャリアの大手3社が提供している人口統計データを以下に示します。
NTT:モバイル空間統計
https://mobaku.jp/
KDDI:KDDI Location Data
https://biz.kddi.com/service/iot/iot-cloud-data/data/
SoftBank:全国うごき統計
https://www.softbank.jp/corp/news/press/sbkk/2020/20201210_03/
補足:人口統計データにおける個人情報の取り扱い
上記の内容を受けて「人口統計データを利用した個人の特定が可能なのでは?」と思った方もいらっしゃるかもしれません。そこで人口統計データがどのようにして作られているのかを簡単に解説します。
まずは個人の特定に繋がらないように、電話番号の情報を削除する、生年月日の情報を「20代」といった年齢階層へと変換する、などといった加工を行います。
次に人口の推測を行います。数えられるのは自社の携帯電話の台数なので、携帯電話の普及率や国勢調査の結果、更には位置情報などを加味することで、エリアや属性ごとの推計人口を算出します。
さらに集計を行った結果、推計人口が極端に少なくなった場合、個人の推測がされやすくなってしまいます。これを防ぐために、推計人口が少ない場合はそのデータを削除するといった処理を行います。 このように個人の特定に繋がらないよう、適切に処理されたデータが提供されています。
外部データ活用のメリット/デメリット
ここまで外部データの例をいくつか紹介してきました。
- 自社で購入がないユーザーからもネット上での自社評価が分かる
- 競合状況/評価が分かる
- 自社売上に影響を与える外部影響要因が分かる
- この先にどのようなシナリオが起こりえるかを推測できる
などといった、自社データのみでは知りえなかった外的要因について把握することができます。
しかし、外部データをただ集めてきて分析すれば良い、という訳ではありません。以下では、外部データを利用する際に注意すべき点についてまとめていきます。
外部データだけだと…
冒頭で「自社データのみを活用して組み立てたマーケティング戦略は“木を見て森を見ず”になってしまいがち」と述べましたが、逆に外部データのみを活用して組み立てたマーケティング戦略は自己分析不足であり、“森を見て木を見ず”になってしまいがちです。
自社データと外部データを適切に組み合わせる事により、自社内外を見渡した3C分析によるマーケティング戦略を立てることが可能になります。
データの入手の際に検討すべきこと
データの入手や加工といった面においては、様々な検討が必要になってきます。
実際にマーケティング活動をする場合、事業課題を踏まえた戦略を立てる事になります。そのため、事業課題の解決にはどういった外部データを入手すれば良いのかをまずは検討する必要があります。
入手したいデータを決めたところで、同じようなデータを提供している機関は複数あります。どこからデータを入手すればコストを抑えられるのか、活用しやすいデータの形式になっているのか、信憑性の高いデータであるのか、商用利用は可能なのか、などといった部分を検討しないと、高いコストを払って手に入れた外部データが無駄になってしまう、という事も起こりえます。
また当然ですが、自社データの保有方法と外部データの保有方法が一致しているとは限りません。データが異なる方法で保持されていたとすれば、お互いのデータをどのようにしてつなぎ合わせるのか、といった課題も出てきます。最悪、データのつなぎ合わせができないといった事も考えられますので、サンプルデータがあればそれを受領して仕様を把握し、必要な条件を満たしているかあらかじめ確認することが重要になってきます。
こういった事が考えられるため、外部データの入手からそれを実際に利用するまでには多くの手間がかかります。
あるべきマーケティング分析の進め方
先ほども述べた通り、闇雲に外部データを集めたところで、それがマーケティングに役立つとは限りません。内部データ、外部データ問わず、
- 可能な限り効率的/低コストで入手できる情報を精査の上活用し、
- 自社が持つ課題+自社を取り巻く市場構造を適切/瞬時に把握し、
- 上記より得られるインサイト/知見/戦略方針の質+量を拡張すること、
が、(デジタル/非デジタル問わず)マーケティング活動において重要なプロセスです。
自社にあったデータ利活用フレームのデザインが重要であり、デザイン・設計が出来れば定常的なマーケティング活動に組み込みが可能となります。
まとめ
本記事では外部データの一例とそれらの活用例を紹介しました。外部データを活用することで、自社データでは得られなかった情報による多角的な分析ができ、より効率的なマーケティング戦略の立案が可能になります。一方で、必要な外部データの精査からそれの活用までの過程には手間がかかる場合もあり、本当に必要なデータを収集することが重要になります。
弊社では今回紹介したような外的データを収集し、自社蓄積データと融合して分析することで、様々なテーマ/課題をお持ちのお客様に対して付加価値情報を提供しています。